SBRICKのクラフトベースでは、2023年4月から、淡路島内外のアーティストを招き、作品展示やワークショップを開催してきました。これまで3年にわたり、アーティストのキュレーションを担当してきてくださったのはやまぐちくにこさん。NPO法人淡路島アートセンターを設立し、長年、淡路島でアートプロジェクトを手がけてこられました。今回は、クラフトベースの3年間の歩みと、今年1年の活動を、やまぐちさんと振り返りました。
「リフレクション」をテーマに、4組のアーティストたちと。
―これまで島内外のアーティストや人々が交わる場づくりを長年されてきたやまぐちさんですが、この3年間、クラフトベースのキュレーターというお仕事はいかがでしたか?
さまざまな形でアートに携わってきましたが、お題をもらってキャスティングをする「キュレーター」は人生初の取り組みでした。これまでは、自分がやりたいことを企画して、自分で予算を確保して

動くしかなかったので。これまでの活動を見て、オファーをいただけたことが、めちゃくちゃうれしかったです。

―今年度のSBRICK全体のテーマは「リフレクション」。このお題を、どう解釈されたのでしょうか。
リフレクションには、経験を振り返り学びを得る「内省」という意味があります 。単に外へ表現するのではなく「内なるものに向かっていく」イメージが手がかりになりました 。
―内なるものに向かっていく……ですか?
アーティストたちの作品を、受け止めた人たちにどう響かせていくか。思わず何かを作りたくなったりするような、そういう湧き出すような衝動を与えられる人たちがいいかなと。
―なるほど。作品に触れた側の中にも「内省・衝動」が起こるようなイメージですね。実際のアーティストの選出は、どのように進められたのでしょうか?
コラボする企業さんが決まっていたので、打ち返せるアーティストという視点がありました。アーティストたちが、自身に響いたものを受け止め、どんな形に表現していくのかが楽しみでしたね。


今年度はマスキングテープブランド「mt」や、手ぬぐい「にじゆら」などのコラボレーションがカタチになった。
―テーマやコラボ企業という明確なお題があって、キャスティングの視点は、例年と変化はありましたか?
これまでの2年間は、島の中の人を起用することが多かったんです。でも今年は、テーマにマッチした人を選ぼうと考えた結果、枠を広げて、島の外のアーティストにもお願いした1年になりました。
テープをちぎる音から、壮大なセッションへ。

―夏の企画は、マスキングテープブランド「mt」とのコラボ展示でしたね。
今年は料理人であり、デザイナーでもある、シンセくんに声をかけました。彼はDJもやるし、いろんな顔を持ったクリエイターです。マスキングテープという素材を渡してみたら、どうなるのか興味がありました。ストレートにテープで絵を描くようなことは、絶対にしないだろうなと期待していたんです。
―実際、どのような展開になったのでしょうか。
それが本当に面白くて。自らは企画人という立ち位置に徹し、チームで作品を創り上げていく「シンセ企画」が立ち上がりました。その第一歩が、マスキングテープの音を収集することでした。
―テープそのものではなく「音」ですか?
のばしたり、ちぎったり、くしゃくしゃにしたり、ゆすったり、爪で擦ったり。そうしたしぐさから生まれる音を収集し、そこに瓦の音や子どもの声を重ねて、映像と音楽が制作されていきました。
―マスキングテープの展示で「映像と音楽」とは、まったく予想外の展開ですね。
そうなんです。ある時、クラフトベースに突然ミラーボールが追加されていたり笑。作品が常にアップデートされていて、不思議な空間になっていました。
―完成されたものをただ置くのではなく、変化していく展示だったのですね。
そう。最終日には「SESSION DAY」と題した即興ライブにまで発展したんです。

―即興ライブですか?
ええ。作った音源をループ再生しておくから、自由に新しいカタチにしてくださいと呼びかけられて。ドラム、ギター、ベース、ピアノと、さまざまな人が重なっていって。こういう切り口でマスキングテープを扱うんだって、期待通りというか、まんまとやられました(笑)。本当にかっこよかったです。

映像、音楽に加えて、オリジナルマスキングテープも制作された。
デザインは昨年のクラフトアーティストのKanade Uedaさん。
シンセ企画
音楽: kowji(foulball record )、撮影:森下宏明(森下写真)、映像編集:伊名岡智也(SilverNextLens)、テープデザイン: ueda kanade、企画: シンセサトル
キャンバスと島と、呼吸をあわせて。
―続いては「絵画」の展示に取り組んでくださった、くどううたさんです。
これまで立体や布、インスタレーション系の作家さんが多かったので、純粋に絵を描くアーティストはくどうさんが初めて。彼女のやわらかな作品が「にじゆら」さんの手ぬぐいになったら素敵だろうなと思いお願いしました。

―実際に会場でキャンバスに向かい、ライブペインティングも試みたとお聞きしました。
はい。でも、その場の勢いでパッと描く即興のライブペイントではなくて……。彼女は、10日以上もかけて一枚の絵を仕上げていきました。
―10日以上! 長い時間をかけてじっくりとキャンバスに向きあわれたんですね。
キャンバスと呼吸をあわせ「この作品は一体何になりたいのか?」と対話するように描き進めていくスタイルなんです。私からすると気が遠くなるような時間。絵の素晴らしさはもちろんですが、その制作に向きあった「時間」みたいなものも感じてもらえる展示になったと思います。

―絵画だけでなく、手ぬぐいの展示もありましたね。
彼女が実際に洲本の街を散歩して、フィールドワークで見つけた植物や魚などを散りばめています。街を歩いて印象的だったのが上空の鳥だったそう。手ぬぐいの中央にはその鳥が描かれました。
―確かに、洲本の上空にはいつも気持ちよさそうな鳥たちが飛んでいますね。暮らしていると見逃してしまうような景色です。
そうした出会いや、イメージをどう広げていったのかもみなさんに見ていただきたくって、制作メモも一緒に展示しました。洲本の古い街並みや、海や山からのインスピレーション、どんなふうに彼女の目に映ったのかが伝わる展示になったかと思います。
くどううた
2005年生まれ。2024年夏より絵描きとして活動を開始。言葉では表現しきれない感情や、自分や鑑賞者にしあわせな気持ちが湧き上がる瞬間をやわらかな感性で描く。
言葉にならない衝動を、ひと針ひと針、反復して。

―1年を締めくくる展示となったのが、二宮佐和子さんですね。彼女にオファーされた決め手は何だったのでしょうか?
まず、クロージングパーティーの開催が決まっていたので、会場を演出できる方にお願いしたいなと。パーティーという場と、彼女の華やかなキャラクターがぴったりだなと思ったんです。そして何より、刺繍という「繰り返す」行為そのものが、今回のテーマである「リフレクション」にバシッとはまるなと。
―なるほど、ひと針ひと針の反復作業が「内省」とリンクしますね。
今回の展示で彼女が掲げてくれたテーマが、実在する曲名から着想を得た「Eternal Reflection」でした。これまでに重ねてきた時間や経験、日々の揺らぎや迷いを改めて見つめ直し、今の自分の位置を確かめる。そんな内へ向かう行為が、刺繍と重なって見えました。
―今回は新作の制作ではなく、佐和子さんのこれまでの作品群を、この空間のボリュームにあわせ構成・展示していただいたとお聞きしました。
刺繍って聞くと、身近で可愛らしいものを想像して近づくじゃないですか。でも、よく見てみると「えっ、お肉!?」って(笑)。彼女の作品には生々しさがあるんです。そのギャップや世界観にギョッとする魅力があるなと。

―佐和子さんのキャラクター、刺繍という身近な手法とは裏腹に、非常に力強く内面をえぐるようなモチーフが多いです。
彼女は、日常のモヤモヤから紛争まで、自分が向き合ったことを、日々メモしていて。その言葉にしきれない部分を、作品にしているのだそうです。その圧倒的なエネルギーが作品になっているので、そういう力強さを感じるんじゃないかなと。

―言葉にならない内なる衝動が、まさに「リフレクション」として空間に放たれていたのですね。この3年を締めくくるにふさわしい、エネルギーに満ちた展示でした。
本当に。私にとっても、キュレーターとして関わってきた3年間は、すごく大きな学びの時間になりました。

クロージングパーティーの作品。
昨年度のクラフトアーティストのYuRuMaruさんと、二宮佐和子さんのコラボで、空間演出が施されました。
二宮佐和子
平面、立体、空間、とあらゆるものを糸と針で縫い刺しする刺繍アーティスト。刺繍をコミュニケーションツールのひとつと捉え、様々なプロジェクトを展開。近年は、モチーフを解体・再構築してグラフィック化し、それを刺繍に落とし込むという、デジタルとアナログを行き来する手法で作品を制作している。
異なる文化圏から、新しい島に出会う。

―5月に開催された「推しなおいしいクラフト祭World」では、韓国からのアーティストが参加されたそうですね。やまぐちさんのご担当ではなかったそうですが、どのような作品だったかお伺いできますか?
韓国のデザイナーと料理人のチーム「NOMADIC KITCHEN」ですね。彼らは「島ソプン」をテーマに活動されていました。ソプンは韓国語で「遠足」、まず数日かけて淡路島を巡り、生産者やクラフトマンたちとの出会いを丁寧に重ねていく。そのプロセス自体がとてもエネルギッシュでした。
―まずは島を深く「旅する」ところから始まったのですね。
そこで得たインスピレーションから、イベント当日の料理メニューを作り上げる 。さらに、その旅での学びや出会いそのものを、インスタレーションとしてクラフトベースに展示する 。この「旅・食・展示」の一連の流れが、同じ作り手として見ていても非常に刺激的でした。




塩作り、漁協、加工品、農家など、さまざまな切り口の作り手を訪ねた。
―食というクラフトを通じて、異なる文化圏の視点から淡路島の姿が再構築されました。やまぐちさんのキュレーションではありませんでしたが、客観的にご覧になっていかがでしたか?
展示された写真やイラスト、韓国語の旅のメモ 。私にとっては見慣れたはずの島の景色も、彼らの目線を通すことで、ハッとするほど新鮮に映りました 。
―やまぐちさんにとっても発見がありましたか?
この展示を通じて、SBRICKという場所が、想像以上に多様な文化や楽しみ方を受け止めてくれる豊かな“器”であることに、改めて気づかされました。自分たちがまだ触れていない未知の可能性が、この島にはまだまだ大きく広がっている。そう確信させてくれた、とても印象的な出会いでした。



NOMADIC KITCHEN
今回のイベント・展示のため結成された、韓国のデザイナーと料理人のユニット。左からシム·ハニ(SHIM HANI)、キム·ス(KIM SU)、チャン・サンギ(JANG SANG KI)、シン·ソヨン(SHIN SOYOUNG)。
場と表現をつなぐ「透明な翻訳者」として。
―昨年は街へ飛び出していくような企画が多かった印象ですが、今年は「リフレクション」ということで、また違った1年になったように思います。
私自身「キュレーター」という役割を、色々と考えていくうちに「この場所とアーティストを繋ぐ、透明な翻訳者なんだ」と気づいて、すごく腑に落ちたんです。
―「透明な翻訳者」、すごく素敵な表現です。
SBRICKという場所が持つ力やお題をアーティストに伝え、彼らの表現へと変換する。ノイズのない「透明な存在」としてその役割を果たせたのかなと。この仕事のおもしろさにも気づけました。
―これで、3年間のキュレーションが区切りを迎えますが、これからのSBRICKや洲本の街にどのような期待を持たれていますか?
まだまだ掘り起こせていない素材や人がたくさん眠っていると思うんです。SBRICKでの展示を通して、アーティストのみなさんが自分自身の新たな可能性に気づいたり、街の中に新しい関係性が生まれたりするのをたくさん見てきました。色々なものを編み込める余白がまだまだたくさんあるので、これからも光が当たっていくといいなと願っています。
―やまぐちさん、3年間のキュレーション、本当にありがとうございました!
ありがとうございました。

やまぐちくにこ
淡路島出身。京都の美術大学を卒業し、大阪での勤務を経て淡路島へUターン。洲本市民工房の立ち上げや運営に携わった後、2005年にNPO法人淡路島アートセンターを設立。淡路島を拠点に、空き家リノベーションや地域資源を活用したアートプロジェクトの企画、ワークショップの運営など、アートを通じた地域づくりや場づくりを行う。