SBRICKのクラフトベースでは、2023年4月~2024年3月のあいだ淡路島内外のアーティストを招き、作品展示やワークショップを開催してきました。1年にわたる、4組のアーティストたちの活動記録をお届けします。
眩く乱反射しながら、調和する光と光。
第一弾となるアーティストは「YouRuMaru」さん。船木傑さん、角理恵さんによるアートユニットで、心と身体が緩む感覚を呼び起こすような瞑想装置としてのアート作品、プロダクトを制作されています。

6月に開催された「ノビシロフェス」でのお披露目にむけて、4月からクラフトベースで展示をスタート。YouRuMaruさんが得意とするのは、光の空間演出です。
今回、クラフトベースに展示いただいたのは、淡路島の玉ねぎの皮をアップサイクルした和紙のライトアート。玉ねぎの皮から抽出した天然顔料で花びらの彩りに変化を加えられています。


「ノビシロフェス」ではメイン会場となるホールに、淡路島の空に現れる光柱(こうちゅう)を模した作品が『Light Piller』と題され展示されました。光柱は、漁船の明かりや街の明かりが反射し出現するという幻想的な風景。二日間の「ノビシロフェス」のオープニングには、鮮やかに乱反射する光の前で、作者である角理恵さんのインド舞踊が披露されました。


YouRuMaru
船木傑、角理恵によるアートユニット。結「つながり」流「ながれて」環「めぐる」をコンセプトに異なる領域のつながりや統合をあらゆる手法を用いて表現。心と身体が緩む感覚を呼び起こすような瞑想装置としてのアート作品、プロダクトを制作。日本の伝統や技術を取り入れた立体作品の制作や光の空間演出を全国の商業施設、ホテル、城などの伝統的建造物で行うほか百貨店での照明販売、子供から大人まで参加できる体験型のアート「折り紙ワークショップ」を展開。ロンドンやパリなど海外の展示会への参加も果たし 、好評を得る。
日常を非日常化する、街なかのバグ。
夏にはカモ井加工紙株式会社が展開するマスキングテープブランド「mt」とS BRICKのコラボレーションイベントが開催。
CRAFTARTISTとして「BugMask」によるマスキングテープをつかった展示も開催されました。今回の展示に合わせ、淡路島在住の置田陽介(Attitude inc.代表 / アートディレクター) と mari(ARIHIRUA主将 / デザイナー)で結成されたゲリラ・ユニット。


マスキングテープを使って、何かを覆い隠したり付け加える行為を行うこと。 洲本の街中にバグ(非日常)を起こすというのが今回の展示コンセプト。
マスクされることによって、普段目に入らなかった色が飛び込んできたり、 目に止まらなかったものに出会えたり、新しい側面に触れれたり、 そこから、自分でも気が付かなかった自分を発見したり。



少し目線や捉え方を変化させると。「同じ」は存在しないということに気づかされる街中のエラー。同じでは無い、「新しい現象」に遭遇した時、脳内にはどんなバグがおきたのでしょうか。当たり前の暮らしの中になじみながら、違和感が生まれ、 町の魅力を再発見する機会があちこちで生まれたのかもしれません。



街中にほどこされたマスキングテープアート。実は展示前にゲリラ的に2日ほどしかお目見えされなかったものもあり、アーカイブとしてSBRICKに展示され、大変見ごたえのある展示となりました。

BugMask
淡路島在住の置田陽介(Attitude inc.代表 / アートディレクター) と mari(ARIHIRUA主将 / デザイナー)で結成されたゲリラ・ユニット。現実世界がルーティーンし始める(日常になる)と、心にバグが生じるという共通点で意気投合。 日常を非日常化することで、新しい見え方捉え方が始まり、そこから人間の創造力や可能性が引き出さ れる実験を試みる。
島に呼応し、生み出し続ける。
南あわじ市でクラフトビールを醸造する「NAMINO OTO BREWING(ナミノオトブリューイング)」とブランドのデザインを手掛けるksk/keisuke terada氏の展示が開催されました。

NAMINO OTO BREWINGは、2023年6月に南あわじ市の慶野松原にオープン。代表を務める河野さんは、大学から大学院まで農業を学んだ後、食品加工会社に就職。その後、大阪の高槻にある壽酒造(國乃長ビール)で、⽇本酒づくりとクラフトビールの醸造に携わりながら修行つみました。

奥深いビール醸造の世界を知るうちに「さまざまなクラフトビールを作ってみたい」と一念発起。「⾷材を活かす」醸造所、NAMINO OTO BREWINGがはじまりました。豊かな淡路島の素材をぐるっと一年、2年目に差し掛かった現在で生まれたビールはなんと31種類。(2023.6~2025.1)

当初は月に1種類ほど新作がでればと考えていたそうですが、予想を上回る島の素材の多さに、どんどん増えていったそうです。
さらに、そのビールに呼応するように生まれたのが、銘柄ごとに異なるデザイン。これはグラフィックデザイナーとして大阪を拠点に活動するksk/keisuke teradaさんによるもの。もともと、河野さんとteradaさんは壽酒造で一緒に働いていたのだとか。

ビールができるごとに、どんな素材でどんな背景でつくったかをまとめて送ると、デザインがあがってくるそうで、まさにセッションのようにお互いのパッションをかけあわせてつくられています。
その”最初”の一年間をまとめたアーカイブ展がクラフトベースで開催。淡路島の生産者の方々と関わりの中生まれたビールとそのデザイン。個性豊かなプロダクトの記憶は、ビールが生まれるまで、さらにそこからデザインが生まれるまでの過程が描かれました。
忘れてしまいそうになる「大切」なこと。
当たり前に売ってないもの。この世界で売っていないモノってなんだろう。この世に存在しないお店屋さんをする「ない屋さん」を展示してくださいました。

2024年度を締めくったアーティストは作家・野口 大輔さん。展示当時は、大阪芸術大学 芸術計画学科 に在学。現在は洲本市の協力隊として活躍されています。
見て、感じることの大切さが知れる「め屋さん」や、触れることで生まれる温かさとコミュニケーションを感じられる「て屋さん」。

「買えないけど、大切なもの」を切り口に、日常では忘れてしまいそうになる“大切” を提供するお店たちが、日替わりでで開店しました。

野口 大輔(のぐち だいすけ)
2003年、岐阜県生まれ。現在、大阪芸術大学 芸術計画学科 4回生。「イベント/event」を軸に、様々な活動・展示・企画を行う。
展覧会に、2023年「全国美大生20人展」アートスフィア奈良、2024年「イスをつくる日」元田辺華園(大阪)、「近つ飛鳥プロジェクト 応答する遺物 土器は忘却に逆らう」大阪府立近つ飛鳥博物館、アーティストインレジデンス「古都祝奈良」ならまちセンター 他。
合計4組のアーティストたちが、クラフトベースを舞台に、島の人やさまざまな企業や素材と混ざりあい、クリエイティブな時間を生み出し続けてくれました。
作品や活動を通して交差した、アーティストと街、人と人。そのひとつひとつが、洲本に新しい風景をもたらした1年でした。今年もまた、さまざまな出会いがSBRICKから生まれていきます。2025年度も、すでにさまざまなアーティストたちがクラフトベースをにぎわせています。今後の展開にもぜひご期待ください。